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女の幸せは結婚しかない?憧れの会社をたった6か月で辞めた理由【第19話・後編】―シンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

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Case19:新卒入社した会社を6か月で辞めた女性

名前:チサト(23歳)

長崎県出身。福岡の大学を卒業後、ずっと憧れていた東京の映画会社に就職。大学で知り合った恋人・ユウスケは福岡で就職し、現在遠距離恋愛中。入社以来、忙しく働いていたが、このまま東京で働き続けていいのか悩み始めている。

上京して就職…たった6か月で逃げ出した理由は…

愛する恋人・ユウスケにも会えず、激務が続き、目標にしたいと思う先輩もいない会社に入社してから3か月、心身ともに追いつめられていた私は、電話でユウスケに言いました。

「私、仕事辞めて福岡戻ろっかな」

でも、ユウスケは驚いた声でこう答えたのです。

「え……仕事辞めるん? それで、福岡で何するん?」

前編はコチラ

予想外の彼の反応

「今、疲れてるからそう思ってるだけやろ。せっかく東京でやりたかった仕事につけたのに、辞めたら絶対に後悔すると思うな。福岡に支社もあるって言ってたやん」

「でも……転属の希望出せるのは、3年後になるって言われたの」

「1年くらいで異動できるっていってなかった?」

電話口の向こうで、ユウスケは言葉をなくしていました。

多忙な毎日と離れる気持ち

日々増えてゆく仕事と反比例するように、ユウスケとの電話は減ってゆきました。そして、入社して4か月目のある日、大喧嘩に発展する出来事が起きたのです。

「ごめん……京都、いけなくなっちゃった」

「え、さすがに今さらキャンセルはないやろ。有給使ったら休めるって言ってたやん」

「公開前のイベントが急遽決まって……ホント最悪。でも、絶対一緒に行きたいから、別の日程に変えられないかな」

「いい加減にしろよ!」

ユウスケが、電話の向こうで声をあげました。

「どれだけ振り回したら気が済むんだよ! 俺はチサトのストレスのはけ口じゃねえんだよ!」

大学のころから、ずっとずっと優しかったユウスケ。私に怒鳴ったのは、この日が初めてでした。

恋も恋愛もうまくいかない日々

「ごめん。もう切るね……」その日を境にユウスケからの電話は途絶え、私の送ったLINEに、「お疲れ」「おやすみ」とそっけない返事があるだけになっていきました。

ユウスケとの関係を取り戻す時間も余裕もなく、仕事に忙殺される日々。いつの間にか、何故この仕事にあこがれていたのかさえ、見失っていきました。

そんなある日、私は大きなミスをしてしまいました。映画の告知リリースに記載される出演キャストの名前の間違えて配信してしまったのです。事務所からクレームの電話があり、私の代わりに、課長が菓子折りをもって、謝罪にいってくれました。

「すみませんでした」

「最初だからしょうがないよ。でも最近、少し集中力が切れているんじゃない?」

その後も、小さなミスを連発しては、周囲に迷惑をかけることが増えていきました。あぁ、私って本当に何もできない。彼氏にも嫌われて、会社ではお荷物になって……。

後ろめたい気持ちを抱えたまま仕事を終えて、電車に乗ったある日、涙があふれて止まらなくなりました。

ユウスケに会いたい……。

満員電車で、周囲の目線を気にする余裕もなく、私は涙をポロポロ流しながら、ユウスケにLINEを打ちました。

「私、もう限界。仕事辞めて、一旦長崎の実家に帰る。それで、ユウスケのところいくね」

でもユウスケからの返信は、朝になってもありませんでした。

仕事でいっぱいだった6か月。でも、彼にも同じ時間は流れていた

「来月いっぱいで辞めさせてください」

翌日、退職届を持って、課長のもとに行きました。

「そっか。もう決めたの?」

「はい、申し訳ありません」

課長はじっと私を見たあと、「先が見えなくなっちゃった?」と言いました。私は、うなずくしかありませんでした。

「私も、同じように思ったことがあったなぁ。あ、今も思ってるかな」

課長はさみしげな表情を浮かべたあと、「この仕事……つまらなかった?」と聞きました。

「いえ、とても……やりがいのある仕事でした。でも、私には向いていなかったと思います。すみません」

「そっか、それならよかった。私、この仕事を愛してるからさ」

課長はそう言って笑い、机に戻りました。私は退職手続きをすませ、ユウスケにLINEしました。

「会社辞めた。ユウスケと結婚したいし」

今日は、すぐに既読がつきました。でも返ってきたのは、衝撃のメッセ―ジでした。

「俺、チサトがずっと東京おるって言ってたけん、近々別れようって伝えるつもりでいた。それに、他に気になる人できたんよ。あとで電話するわ」

その日の夜の電話で、私たちは別れることになりました。私が泣きわめいても、ユウスケは「ごめん、でももう無理やから」というばかりでした。

こうして私は、恋愛と仕事の両方を失ったのです。

課長の「本当の優しさ」に気付いた日

退社の一週間前、私の送別会が行われました。たった6か月で退職するのに送別会なんて、気まずい……。送別会も後半にさしかかったころ、お酒の回った男性の先輩が、私を指差してさけびました。

「チサト、忙しかったと思うけど、よく頑張ったよ! アレだろ? 遠距離恋愛の彼と寿退社だろ?」

みんなの視線が、一気に私に集中しました。なんて答えたらよいかわからず、涙があふれそうになったそのとき、「プライベートの話にふみこむのはハラスメントですよ」と、頬を真っ赤にした課長が、その場の空気を破りました。

「半年だけど、よくがんばってくれました。ありがとう。これからのチサトさんに乾杯!」そう言って、ワインを水のように飲み干しました。

それは、半年前の歓迎会の時と同じでした。

「課長、最後までやばかったね~。ひとりでワイン一本空けてたよ」

帰り道、同期が耳元でささやきました。でも、私は何も言えませんでした。課長が、何度も私のミスをリカバーしてくれた日々を思い出していたのです。

私は、ようやく気づきました。あの日も、そして今夜も、課長が私のことを守ろうとしてくれていたことを……。

何もかも失った私を救ってくれたのは…

私は、憧れていた仕事と、大好きな恋人、同時に失いました。もう少しユウスケに思いやりを持ててていたら……。仕事で課長が私に何を教えてくれようとしていたのか、早く気付いていたら……。

地元に戻って、ボーッと毎日を過ごしていたある日、ユウスケと初めてのデートで見た映画のDVDが出てきました。

「懐かしいな……」

それは私が映画のプロモーションの仕事を目指したきっかけになったアニメ映画でした。2時間の映画を見終わった後、私は大学2年生の春にユウスケと話していたことを思い出していました。

「この映画、チサトと観たいって思ったんだよね」

「なんで?」

「この映画のキャッチコピーに惹かれて」

エンドロールには、宣伝担当として、課長の名前がありました。ユウスケと私がデートをするきっかけとなった映画を宣伝していたのは、あの、私をずっと気にかけてくれた課長だったのです。

考察:女性の幸せって?

チサトさんは取材のあと、こう語りました。

「仕事をすぐに辞めるなんて、仕事を舐めてるって思う人もいると思います。でもあのとき、私は耐えられなかったんです。猛烈に後悔しました。憧れていた仕事を簡単に手放してしまったって。もっと頑張ればよかったって。後悔しても遅いですけどね」

恋も仕事も結婚も!すべて手に入れる方法は…

「あれから私は、就活をして、地元にある企業に入社しました。仕事は変わったけど、課長みたいにちゃんと働いて、“世の中に何かを広める仕事”がしたいってあらためて思ったんです。

しばらくはユウスケのことを引きずっていたけれど、最近やっと彼氏もできました。やっぱり、地元の男性は落ち着きますね(笑)。それに、私には地元での生活が合っています。

恋愛も仕事も、もう一度チャレンジしてみようって思っています。大切なものを失って、ようやく一歩を踏み出せた気がする。あのときの私は、仕事からも恋愛からも、逃げていただけ。今はこう思っています。地元で仕事も結婚も、両方したい! それが自分の求める幸せの第一歩だと思うから」

仕事も恋も結婚も……一度はすべてを失ったからこそ、彼女の両手には、すべてを手に入れるだけの余裕が生まれたのかもしれません。

【筆者プロフィール】

毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

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