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愛を「いいね」に替えてしまったインスタカップル【第17話・前編】―シンデレラになれなかった私たち―

毒島 サチコS.Busujima

またひとつ、カップルアカウントが消えた

「別れました」

今日もまた、人気だったカップルアカウントが突如消えました。

「えー残念」「ショック…憧れだったのに」「やっぱりw別れたw」

残念がる声に混ざって「やっぱりね」という否定的なコメントも目につきます。僕がSNSに彼女の写真を載せ始めたのは、2018年の夏。

それから2年近くが経ち、僕と彼女のカップルアカウントは、数万人のフォロワーを獲得するまでになりました。でも、カップルアカウントが閉じるのを見る度に、こう思うのです。

僕たちは、愛を「いいね」に替えてしまっているのではないか……と。

Case16:愛をお金に変えるインスタカップル

名前:タクマ(25歳)

神奈川県在住。製造メーカーに勤める会社員。カメラの趣味が高じて、彼女のことを撮った写真をインスタグラムに投稿するようになる。

ハッシュタグから始まった恋

「#写真好きな人と繋がりたい」

僕と彼女との出会いは、こんなインスタグラムのハッシュタグでした。

社会人1年目のとき、仕事だけで終わってしまう毎日に退屈して、何気なく始めたカメラ。社会人の友達を増やそうと、写真好きな人が集まる「撮影会」に参加しました。そこには、僕と同じように趣味で写真を撮る人や「被写体」と呼ばれる撮影モデルの女性が集まっていました。

夏の湘南の海を撮影をして、集まったメンバーでBBQをしているとき、ショートカットのワンピースを着たひとりの女性が声をかけてきました。

「タクマさんですよね……? インスタいつも見てます。私、タクマさんが撮った湘南の夕焼け、好きなんです」

それがリカでした。

増える「いいね」から交際へ

「ありがとう」と言うと、彼女は小声で「あの、良かったら個別で私を撮ってくれませんか……?」と言いました。

「え? いま?」

「はい。夕陽をバックにして。もう日は落ちかけてるけど……。あ、あそこならキレイに撮れるかも!」

彼女が指差した波打ち際には、あと数分で落ちる夕陽が海に反射してキラキラと光っています。

「わ、もう落ちちゃう! 急ぎましょう!」

急に僕の手を取ると、BBQ会場から抜け出して、走り出しました。

彼女は波打ち際に着くと、おもむろにサンダルを脱ぎ、勢いよく海に足を入れました。

「え、つめた! どこらへんがいいですか? ここかなぁ? エモい?(笑)」

「あ、そこで止まって。すごくいい」

夕陽が落ちかけた空にオレンジと青の海。僕は急いでシャッターを切りました。彼女の着ていた白いワンピースが、絶妙な色合いで、海に映えています。僕が「いい感じ!」と言うと、彼女は目がなくなるくらい、くしゃっと笑いました。

その日の夜、風景画ばかりだった僕のインスタに、初めて彼女の写真を載せました。

増える「いいね」とフォロワー数

彼女と夕陽の写真は、インスタの僕の投稿の中でいちばん多く「いいね」を獲得し、僕はこの日をきっかけに、頻繁に彼女を撮影するようになりました。

「今週末も撮影しない?」

それは毎週の恒例行事になり、僕のアカウントの「いいね」はどんどん増えました。

ファインダー越しに彼女を見つめ、写真を投稿する毎日。僕たちは、ごく自然な流れで、付き合うことになりました。

「ねぇタクマ、これからふたりの思い出を残していこうよ」

付き合って2週間ほど経った2018年の秋、撮られるのが好きな彼女と撮るのが好きな僕は、ふたりの共同インスタアカウントを作りました。写真の投稿は僕が管理していましたが、パスワードは彼女に共有していて、コメントや「いいね」は見られるようになっています。

僕は、彼女をさまざまなシチュエーションで撮影し、投稿しました。

たまに、ふたりのカップルフォトも投稿しました。それは多くの「いいね」を集めます。アカウントをはじめて1か月たったころには、フォロワーは1万人を越え、毎日たくさんの人が僕たちの写真を見てくれるようになりました。

「めちゃくちゃキレイな写真!」

「ステキな彼女さんですね!」

「憧れのカップルです」

毎日、そんなコメントがたくさん並ぶようになりました。

彼女の「夢」

「私、モデルになるのが夢だったんだよね」

彼女がそう話し始めたのは、付き合って3か月が経ったころでした。

普段は会社員をしながらたまに被写体をしている彼女は、中学生のときからモデルになることを夢見ていたのだそう。でも、そんな夢は憧れで終わりました。

「モデルにはなれなかったけど、タクマが撮ってくれる今の私が好き」

「もっとキレイに撮って。もっといいねがいっぱいつくように」

彼女はそう言って、僕に笑顔を向けました。僕は夢中で彼女を撮影し、いちばん美しい姿を残したいと思うようになりました。

そしてこのころから、僕たちのもとには、企業から「カップルアプリ」や「ペアウォッチ」の紹介をしてほしいといった仕事が舞い込むようになりました。ふたりで商品を紹介する写真を撮れば、1案件に対して、数万から数十万の報酬がもらえるのです。

急に怒り出した彼女

そんなある日のこと。突然インスタを見ていた彼女の顔が曇りました。

「なに、これ……?」

震える彼女の指先には、昨日投稿した、朝日に照らされた彼女の寝顔がありました。

「え、昨日、寝てた姿がキレイだったから撮った」

「……ありえない。勝手に上げないでよ! すっぴんなのに」

「キレイじゃん。そんなに怒らないでよ」

僕が軽く謝ると、彼女は低い声で「ありえない」ともう一度言いました。この日、今まで「タクマがとった写真ならステキだから」と投稿はすべて僕に任せてくれていた彼女が、はじめて怒ったのです。

「ってか、最近さ……」

彼女はうつむいたまま、インスタグラムのコメント欄を見つめています。

「ブスだとか、このカップルキモイとか、ネガティブコメントもたまにあるよね」

彼女は続けて「ねぇ、これからは投稿する前に一度見せてよ。ちゃんと顔とか加工するようにするから」と言いました。

その日を境に、彼女は、僕の撮った写真を、自らレタッチするようになりました。僕と一緒にいる時間も、彼女はずっとスマホを見つめています。

「フィルターどっちがいいと思う?」

「このタクマと私の手つなぎショット、バズるかな? 何時にアップする?」

彼女は、常に「いいね」を増やす方法を考えていました。僕が投稿していた共同アカウントは、いつしか彼女がすべて運用するようになりました。

彼女が投稿するようになって、ますます「いいね」の数が増えました。でも、「いいね」数に比例して、一緒にいるのに、会話のないデートも増えました。

彼女と過ごす時間の大半はインスタに費やすようになり、「憧れのカップルです」というコメントが並んだ投稿のほとんどは、僕がその1枚のために、何十枚も撮影した中で彼女が選んだ写真。

周囲からは「幸せカップル」ともてはやされましたが、目の前の彼女は、もう何時間もスマホでインスタに載せる写真を加工しています。

そこにいたのは、出会ったころの、僕の好きだった彼女ではありませんでした。しかめっ面で、スマホを見つめる姿は、常にどう見られるかを気にして、周囲からの評価におびえ、自分を見失っているように見えました。

これが、彼女と僕との幸せじゃない。僕は次第にそう思うようになりました。

削除を決めた日

カップルアカウントをはじめて半年たったころ、僕は彼女に「インスタを消すことを提案しました。

このままでは、カメラも、そして彼女のことも、嫌いになってしまうと思ったのです。

僕は正直に自分の気持ちを伝えました。

「最近、ふたりで話すこともすることも、インスタばかりだろ。気になる気持ちはわかる。でも俺はリカを撮りたくて、インスタやってるだけだから。フォロワー数やいいね数よりも、リカと一緒に過ごす時間を充実させたい。

だからさ、どっかで区切ったほうがいいと思うんだ。これからは、ふたりの中の思い出として、残していこうよ」

その言葉を聞いた彼女は、呆れたような顔をして言いました。

「何言ってるの? 消せないよ」

後編へ続く――

【筆者プロフィール】

毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

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次回:7月25日土曜日 更新予定

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