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12時の鐘が鳴ったそのあとに【最終話】ーシンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

目次

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選ばれるテクニックよりも、選ばれなかったリアルを書きたい

連載『シンデレラになれなかった私たち』では、スタートから今日まで、一年を通して、「選ばれなかった女性たち」への取材を通して、今を生きる女性たちの恋愛事情に迫ってきました。

「愛する技術」「愛される秘訣」といった、「選ばれる側」になるためのテクニックが氾濫する中、「選ばれなかった」という視点で恋愛を見つめることにより、新しい視点が見えてくるのではないか。誰の中にもある「選ばれなかった経験」をした女性たちが、何を思って、その後どのようにして生きるのかというかに焦点を置いて、取材を重ねてきました。

取材に協力してくれた女性たちは、それまで封印していた、「黒歴史」が公になるということを覚悟のうえで、文字どおり、魂を削って「選ばれなかった経験」を語ってくださいました。

この連載の取材を通して、さまざまな女性に出会いました。

元カレに別れの理由を聞きに行った女性。セックスレスで結婚を決めた女性。長年の不倫に悩む女性。コロナの影響で好きな人に会えなくなった女性……。

取材は数時間におよび、恋愛経験だけではなく、幼少期にまでさかのぼることもしばしばでした。

印象的だったのが、年の離れた男性ばかりを好きになるという女性のひと言です。

「昔、お父さんの仕事が忙しくて、寂しい思いをしたから、大人になってお父さんみたいな人を求めてるのかも」

恋愛観は、幼少期に作られるの?

大人になってからの恋愛観が、幼少期に作られているというのは、他の女性たちの話を聞いているときも感じていたことでした。

「クラスの男の子にいじめられて、男性不信になった」

「厳しい父親に育てられた反動で、破天荒な男性に惹かれる」

「両親の離婚で家族がバラバラになったので、恋人に対しても“いつか捨てられるのではないか”と不安になる」

恋愛観とは、大人になってから形作られるものではなく、幼少期の体験が、のちの大きく影響を与えている。取材を重ねるうちに、こう確信するようになりました。

恋愛とは、人生そのものなんだ……と。

恋愛ライター・毒島サチコの恋愛観

取材を重ねていくうちに、自分の恋愛観も気になり始めました。

相手の気持ちを試したり、「好き」という言葉を何度も求めたり。大喧嘩をして彼を振り払うくせに、追いかけてこなかったら「なんで追いかけてきてくれないの!」とキレる……。「誰もこんな私のことなんて、好きになってくれない」と悲観的になり、少女漫画を読みふけって、妄想の世界に入り込んでしまうこともありました。

私の恋愛観は、どこから生まれたのだろう……。

幼少期の、忘れられない初恋の思い出がよみがえりました。

私が、5歳のとき……。

陽が落ちて、夕闇が近づく17時半。保育園の友達たちと鬼ごっこをしていました。鬼になったユウスケ君が「いーち、にー」と数えはじめると、私は全速力で走り、保育園の裏にあった壊れかけの倉庫の中に身を潜めました。

5分、10分……。「タッチ!」という声が、遠くで響きます。

でも、ユウスケ君は、他の子たちを追いかけるばかりで、私が隠れている倉庫には近寄ってきません。ユウスケ君の気を引きたくて、倉庫から顔をのぞかせたのに、ユウスケ君はチラッと私を見ただけで、すぐに別の子を追いかけました。

とうとう、みんなつかまって、私が最後のひとりになりました。私は同じ場所に隠れたまま、見つけてもらうのを待ちました。

でも、ユウスケ君は私を見つけてくれませんでした。それどころか、私が隠れている間にお迎えが来て、私以外のみんなは全員帰ってしまったのです。私は泣きながら、夕闇の保育園を後にしました。

次の日、ユウスケ君に「サチコは隠れてズルするから、もう一緒に遊ばない」と言われて、私は仲間に入れてもらえなくなりました。ユウスケ君は、私が隠れていた場所を知っていながら、わざと追いかけなかったのです。

大人になった今でも、ときどき、この夢を見ます。追いかけてほしかった。見つけてほしかった。

ユウスケ君は、私の初恋の男の子でした。

他愛もない幼稚園児のエピソードですが、「好きな人に追いかけてほしい」という気持ちは、このころからめばえた気がします。

「みんなと遊びたい」「ユウスケ君に謝りたい」

でも、最近になって、あのときの辛い経験が、私の書く原動力になっていることに気付きました。そして、恋愛も仕事も待っているだけじゃダメだ、とも。好きなら自分で追いかけないと。見つけてほしいなら自分が叫ばないと……!

だけど、それは心と体に染み付いていて、簡単には捨てることができないもの。だからこそ、私も、そして私が取材してきた女性たちも、もがき苦しみ、幸せを探し続けているのだと思います。

恋愛とは人生そのもの。でも人生のすべてが恋愛ではない

取材を重ねながら、もうひとつ気づいたことがあります。

それは、多くの女性が、男性に選ばれることを望んでいるように見えて、実際は、自分自身の人生を選択して、本当の幸せに近づいているということ。

「選ばれる女」や「愛される女」になることよりも、目の前の自分の人生を選ぶこと。そうやって歩いていく女性たちは、とても輝いて見えました。

恋愛とは人生そのものだけど、人生のすべてが恋愛ではない。

少し視野を広げるだけで、素敵な生き方はたくさん広がっている。そのことに、目を見開かされる思いでした。

恋に迷ったら、今の自分ではなく、目の前にいる彼でもなく、幼いころの自分を思い出してみる。そして「選ばれる」「選ばれない」という受動的な生き方ではなく、出会いも別れもひっくるめて自分で「選ぶ」ことを意識する。そこから、何かが開けるような気がします。

まとめ

私にとってこの連載は、自分自身を振り返る、いいきっかけになりました。読んで下さったみなさんにとっても、そうであるとしたら、それほど嬉しいことはありません。

最後になりましたが、『MENJOY』編集部のみなさま、カメラマンの山口謙吾さん、ヘアメークの梅沢優子さん、そして読んでくださった読者の方々に、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

この連載はこれで最後になりますが、今後も変わらず、私らしい文章を紡いでいきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

2020.10.31 毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

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