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「陳謝」とは…「謝罪」や「詫びる」と何が違う?ビジネスで使える例文
松田優Y.Matsuda
1:「陳謝」とは?
陳謝というのは、ちょっと固い印象なので、なんとなく「丁寧に謝るときに使う言葉」という印象をもっている人が多いと思います。では、具体的な意味は? 今回は「陳謝」の意味と類語、英語での表現を調べてみました。
(1)陳謝の意味は?「詫びる」や「謝罪」との違いも
「謝る」という意味合いの言葉は「詫びる」「謝罪」などいくつかありますが、まずは今回のメインである「陳謝」の意味を確認しましょう。
陳謝(読み)チンシャ
事情を述べて詫びること。「不祥事を深く陳謝する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
謝る/詫びる の使い分け
1「謝る」は、「誤(あやま)る」からの転義で、過失を自ら認めることから転じたもの。
2「詫びる」には、つらく思う、困惑しているという要素が含まれており、「見るからにわびているようだから、もう許してあげよう」などの表現があるが、「謝る」には、この要素がないので、「口先だけで謝ってもだめだ」などの表現がある。
出典:類語例解辞典(小学館)
どれも「詫びること」を意味していますが、「陳謝」にだけ「事情を述べて」という意味があります。「陳」という字には、「述べる、申し立てる」という意味があるため、「詫びる」「謝罪」とは、使われるシーンが変わってきそうです。
(2)陳謝の類語は?
「陳謝」の類語には、上記の「詫びる」「謝罪」があります。こちらも意味を見てみましょう。
詫びる(読み)ワビル
わ・ぶ[バ上二]《「侘びる」と同語源》自分の非を認めて、相手の許しを請う。あやまる。「非礼を―・びる」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
謝罪(読み)シャザイ
罪や過ちを詫びること。「被害者に謝罪する」「謝罪広告」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「謝罪」にも「陳謝」にも「詫びる」の意味が含まれていますね。他にも、「謝意」「詫び言」「平謝り」などがあります。
(3)陳謝を英語で言うと?
「陳謝」を英語で言うと「an apology」となります。
ちんしゃ【陳謝】
an apology
陳謝する apologize ((to a person for (doing) a thing))
配達の遅れを陳謝した
「We made our apologies [We apologized] for the delay in delivery.
息子の失礼な発言に対し陳謝いたします
I beg your pardon [apologize to you] for my son’s impolite remark.
出典:プログレッシブ和英中辞典(小学館)
また、形式ばった表現では「express one’s regret 《for》」というようにも表されます。
2:【例文つき】ビジネスでも使える!「陳謝」する使い方5つ
説明して謝意を伝える「陳謝」ですが、実際どのように使えばいいのでしょうか。ビジネスでも使える「陳謝」の使い方を例文つきで、5つご紹介します。
(1)陳謝いたします
「陳謝いたします」は、「陳謝」に「する」の謙譲語である「いたす」と丁寧語の「ます」を組み合わせたものです。致命的ではないものの、相手方に迷惑をかけたときなどに使える表現です。
例えば「私どもの管理不行き届きでご迷惑をおかけしましたことを、心より陳謝いたします」「今回の件を厳粛に受け止め、陳謝いたします」というように使います。
(2)陳謝申し上げます
「陳謝」に、「申す」の謙譲語の「申し上げる」と「ます」を組み合わせたものです。相手先や顧客などに、トラブルが原因で失礼や不便が生じた場合に使えます。「陳謝いたします」の言い換えの表現ですね。
「今回の件は、〇〇といった経緯がございました。皆さまにご不便をおかけいたしましたことを、心より陳謝申し上げます」というように使用します。
(3)陳謝した
「陳謝」+「した」の接尾語を組み合わせたものです。不便や迷惑をかけた相手先に対して、すでに謝意を伝えたことを報告するときなどに使います。不祥事についての記者会見を取り上げるニュースの導入などでよく耳にしますね。
「現代表取締役の〇〇氏が、自身の早急な対応が遠因でもあったとし、陳謝しました」「企業側は陳謝したが、十分な内容とは言えなかった」というように使います。
(4)陳謝する
「陳謝」+「する」の動詞の組み合わせです。これから謝意を伝える予定であるときに使用します。こちらも報道番組などでよく使われている表現ですね。
「成分偽装のあった〇〇社代表の△△氏が会見を開き、同問題に関する経緯を説明し、陳謝するとのことです」「本件に関し、社内で調査を行った内容をもとに、原因を説明し陳謝する予定です」のように使用します。
(5)陳謝させていただきます
「陳謝」に、「させてもらう」の謙譲表現である「させていただく」を合わせた表現です。起きたトラブルに関して責任がある側の代表者として謝意を表明する場合などに使う表現です。
「当該サービスのリリース遅延の原因として、弊社側の対応不備は看過できるものではありません。この場で陳謝させていただきたいと考えております」のように使います。
3:陳謝と謝罪を使い分けるポイント3つ
「陳謝」と「謝罪」、どちらも「詫びること」という意味ですが、どのように使い分けるのでしょうか。適切な使い分けのポイントを、3つ挙げてみました。
(1)不便や迷惑をかけた「事情を説明する」場合は陳謝
顧客や取引先など、相手方に不便や迷惑をかけたり、損害を生じさせてしまったりした際に、その原因や理由、発生状況や経緯等を説明する必要がある場合は「陳謝」という言葉や方法を選ぶのが良いでしょう。
「陳謝」の意味は、「事情や経緯を説明したうえでお詫びをする」ことでしたね。ですので、対応や成果物に落ち度があったことを認めるのは当然ながら、「陳謝」する場合はそれだけでなく、落ち度があったのはどうしてなのかということの説明も必要になります。
(2)迷惑や損害に対する「謝意を表するのみ」の場合は謝罪
自分自身や自社側に落ち度があったことの詳細については相手方で既に調査して報告を受けていたり、こちらから改めて説明する必要がなく、謝意の表明のみしたい場合は「謝罪」という表現を選ぶのがベターでしょう。
「謝罪」は、「落ち度を認めてお詫びをする」という意味。なので、経緯説明等なくお詫びの気持ちを伝えるときや、相手に話を聞いてもらえずに土下座したり平謝りしたりという場合も、「謝罪」という表現が適当です。
(3)「陳謝」は「謝罪」に含まれるが「謝罪」は「陳謝」には含まれない
「状況や経緯を説明したうえで、詫びること」を意味する「陳謝」も、「詫びること」という意味があるので、広い意味で使われる「謝罪」の中に含まれます。
「陳謝」も「謝罪」も「詫びること」という意味を持つため、どちらも相互に言い換えることができるように感じますが、「謝罪」には「状況や経緯を説明する」という意味はありません。
そのため、「謝意を表すること」自体を「陳謝」と表現しようとするときには注意が必要です。
4:まとめ
お詫びを伝えるときの丁寧な表現という認識だった「陳謝」という言葉。具体的な意味がわかると、どのように使うのが適切かが見えてきましたね。
もし「陳謝」が必要になってしまったときは、この記事を参考に、正しく丁寧にお詫びの気持ちを伝えてみてください。