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父の不倫で家族を失った私が不倫にハマった理由【第20話・前編】ーシンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコS.Busujima

©gettyimages

Case20:不倫にハマった女性

名前:アヤコ(30歳)

東京都出身。広告代理店に勤めている。父の不倫現場を小学生のときに目撃し、「絶対に不倫はしない」と決めていたが……。

結婚=恋愛のハッピーエンド?

結婚は、王子さまが迎えに来てくれた「シンデレラ」のようなハッピーエンドではないと気付いたのは、10歳のときでした。

私と妹が寝た後、父と母が怒鳴り合っていました。「まだ会ってるのね」という母の声と、「もう別れたと言っただろう」という父の怒鳴り声とともに、机をドンっと強く叩く音が響きます。そしてしばらくすると、母のすすり泣く声が聞こえてきました。

両親の喧嘩がはじまると、2段ベッドの下段で寝ている妹が、上段の私を足で蹴り、声を潜めて話しかけてきました。

「ねぇ、お父さんとお母さんが離婚したら、どっちについていくか、決めた?」

「決めてないよ。あんたは?」

「苗字変わるの嫌だなあ。お母さんの苗字になったら出席番号1番になっちゃうもん」

「じゃあ、お父さん? 料理できないよ」

両親が喧嘩した夜は、不安で眠れませんでした。でも母は、朝になるといつもと同じようにキッチンに立ち、私と妹が起きてくるのを待っていました。ジリジリと焼けてゆくトーストを見つめる母の目は、赤く腫れ上がっていました。

父の不倫現場

ある日のこと。私は学校の帰りに、欲しかった本を探すため、家から少し離れた本屋に寄り道をしました。そこで偶然、父の車を見つけたのです。仕事の時間のはずなのに……。

声をかけようと車に近づきましたが、父の横顔が見えたとたん、足がすくみました。助手席に座っていたのは、髪の長い、見ず知らずの綺麗な女の人だったからです。その女の人は、父を優しい目で見つめ、頬にキスをしました。

私はすぐに理解しました。母を傷つけていたのはこの女性なのだと。そして、夜な夜な繰り返される両親の喧嘩の原因は、この人にあるのだと。私は遠くから、父に腕を絡める女性を睨みつけました。そして、心の底からこう思いました。

不倫は最低だ。傷つく人がいる。絶対にしてはいけない……と。

その日、私は何事もなかったかのように振る舞いました。母には、絶対に話してはいけないと思ったのです。

父の不倫で学んだはずなのに

それから20年が経ち、私は30歳になっていました。友人たちはどんどん結婚していくけれど、私はまだ独身です。

理由はふたつありました。ひとつは、結婚しなくても生きていけるだけの収入があるから。勤めている広告代理店でのキャリアは8年を超え、ある程度大きな仕事を任されるようになっていました。

もうひとつの理由は、既婚者と付き合っているから。相手は、取引先の食品会社に勤める5歳年上の男性で、ユウキといいます。

初めて彼と仕事以外で会話をしたのは、とある立食パーティでのこと。会が終盤に差しかかったころ、ひとりでデザートのアイスクリームを食べていた私に、声を掛けてきたのが、ユウキでした。

「先日はありがとうございました。なんかお酒、持ってきます?」

そう言って、ユウキは、ひきこまれそうに大きな目で、私を見つめました。

「こちらこそありがとうございました。でも、もうデザートなんで、お酒は大丈夫です」

「アイス、おいしそうですね。俺も頼めばよかった」

「ひと口食べます?」

ユウキは「いいんですか?」と微笑んだあと、溶けはじめていたアイスクリームをすくって口に入れました。唇についたクリームを舌でぺろりと舐める仕草は、少年のようでした。

私は、一瞬で恋に落ちました。初恋の相手に似ていたからかもしれません。地元が同じこともあって意気投合した私たちは、ふたりで食事に行くようになり、3回目のデートの後、酔った勢いでホテルに入り、体を重ねました。

ユウキが結婚していたことを知ったのはそのあとです。

「なんで隠してたの!」と怒る私に、ユウキは悪びれる様子もなく「隠してないよ。聞かれなかったから、言わなかっただけ。付き合ってほしい」と言いました。

妻子ある男性と……。私は、罪悪感でいっぱいになりました。

「付き合うなんて無理。当たり前でしょ。私、不倫はしないの」

ユウキは「そっか」と言ったあと、こう問いました。

「どうして、不倫はしちゃいけないと思うの?」

どうして不倫はだめなのか?

ユウキの言葉に二の句を告げず、私はうつむきました。

不倫がダメなのは……。脳裏に、目を真っ赤にして泣いている母親の顔が浮かびました。

「傷つく人がいるから」

「俺の家族にバレたくないってこと?」

「父の不倫が原因で、両親は離婚した。私もお母さんも傷ついた」

「それは、お父さんが悪いね。でも、バレなければ誰も傷つかないよ」

禁断の恋の始まり

「バレなければ誰も傷つかないよ」

ユウキの言葉が、頭の中で繰り返し再生されていました。

「出会っちゃったんだから、しょうがないよ」

ユウキは私の手を取って、「今まで出会った人の中でいちばん好きなんだ。ひと目惚れだよ」といいました。それは、私も同じでした。ユウキを見た瞬間、全身に稲妻が走ったような感覚に支配されたのです。今まで、数人の男性と付き合ってきましたが、ユウキに抱いたそれは、人生で初めての感情でした。

不倫はたくさんの人を傷つける。でもバレなければ……。

私はユウキと付き合い始めました。

幸せな誕生日

不倫は絶対にしない。子供のころからの誓いは、「バレないこと」を条件に、簡単に破られてしまいました。

ユウキはことあるごとに「小学生の娘はかわいいけれど、妻のことはもう愛していない」といいました。不倫する男性の常用句だということはわかっていましたが、両親の離婚で、男と女はそんなもんだと悟っていた私は、たいして驚きませんでした。

年上のユウキは、私の欲しいものをすべてを与えてくれました。ときどき、恋人ではなく、父親のように感じることもありました。私がわがままをいって、「会いたい」とねだったときは、すぐに飛んできてくれました。

「お誕生日おめでとう!」

私の30歳の誕生日には、ユウキは私がずっと欲しかった時計をくれました。

「アヤコ、誰よりも愛しているよ。もう一生アヤコとしかしないから」

ユウキが耳元でささやく声で私は満たされ、狂ったように体を求め合い、抱き合ったまま、眠りました。

父は母よりも不倫相手を愛していた

ユウキの腕の中で、私はふと、父の不倫相手の顔を思い出していました。心から憎んでいた彼女が、今の私には、幸せな女性に思えたのです。

長いまつげに、美しい髪、ピンクの唇。同じ女性でも、毎日ノーメイクでキッチンに立つ母とは、まるで住む世界の違う生き物でした。父に会うためにオシャレをする女性、そしてその女性をいとおしく見つめる父。バレないようにこっそり逢瀬を重ねるふたりは、世間では認められない関係。でも父は、母よりもあの女のことを愛していた。愛されない母のように生きるくらいなら、愛される不倫相手のほうが幸せかもしれない。

関係がバレなければ、誰も傷つけることはない……。結婚願望がなかった私は「不倫はバレなければしてもいい」という言葉を頭の中で繰り返しました。

私は、愛されない妻でいるよりも、不倫でもいいから、愛される女でいたい……。

突然の音信不通

ユウキと付き合い始めて1年ほど経ったある日の土曜日、事件が起きました。

突然、ユウキと連絡がつかなくなったのです。それまで、どんなわがままでも、ちゃんとフォローしてくれていたので、こんなことは初めて。丸1日経っても連絡はなく、心配になった私は打ち合わせの約束があると嘘をついて、ユウキの会社に電話を掛けました。

そこで私は、ユウキが入院していたことを知ったのです。

後編へ続く―

【筆者プロフィール】

毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

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次回:9月26日土曜日 更新予定

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