恋のなやみに効くメディア

親は選べない。毒親と生きた女性の物語【第13話・前編】―シンデレラになれなかった私たち―

毒島 サチコS.Busujima

Case13:毒親と生きた女性

名前:ユウカ(27歳)

大阪府出身。24歳のとき、付き合っていた彼の転勤を機に結婚して上京。現在は出版社で営業をしている。

離婚した日

「ハンコだけ押して提出しといてね。今までありがとう」

短い手紙と記入済みの離婚届を置いて部屋を出たのは、3月の寒い日でした。午後6時。陽が落ちて、夕闇が近づいています。

私はたったひとり、部屋から持ってきたドライヤーと、コンパクトサイズの掃除機を忍ばせた大きなバッグを抱えて駅に向かっています。

道の途中、お互いを温め合めあって歩くたくさんのカップルとすれ違いました。でも、ちっとも心細くありません。むしろ今までに感じたことのないような解放感に包まれていたのです。

これから新居に向かいます。池袋のちょっと向こうの新しい街。初めてのひとり暮らしです。

高校入学の日

そこからさかのぼること12年前。高校入学の日……。

入学式から帰ってきた私は、制服のまま、家族5人分のご飯をつくっていました。

ご飯をよそって、机に並べたら、母と母の彼氏、祖母に声を掛けます。

午後7時。全員がそろい「いただきます」と手を合わせた後、自分が食べる前に、母がひと口食べて、感想を言うのを待ちます。もし「まずい」と言われたら、すぐに作り直さなければいけません。

「今日はまあまあね」

その言葉に、ホッと胸をなでおろしました。

メニューは豚の生姜焼き。今日は母の彼氏が来る日で、必ず用意しておかなければならない「アサヒスーパードライ」もキンキンに冷やしておきました。

家族の当たり前

我が家の家族構成は、母・祖母・妹・私の4人。そして、たまにそこに母の彼氏が加わります。

母は日中コールセンターでパート社員として働いていました。祖母は足が悪く、食事以外は、ほとんど寝たきりの状態。妹は、中学生なのに髪を明るく染めていて、いわゆる「不良少女」でした。

父と母が「価値観の違い」という理由で離婚したのは私が3歳のとき。離婚してから、母は彼氏ができては別れ、また新しい彼氏ができては別れを繰り返していました。2年前からは週に3回ほど、母の彼氏がうちに来て一緒に晩ごはんを食べるようになっていました。

うちには「家の仕事」の役割分担がありました。朝と夜の食事担当は私です。家族4人、母の彼氏が来たときは5人分を私ひとりでつくっていました。妹の担当は、洗濯とお風呂掃除でしたが、最近は友達と遊んで夜中に帰ってくる日が増えて、妹の担当も私がするようになっていました。

母は「あの子はもういいわ」と言って、妹に関しては野放しの状態。その一方で私には、「あんただけは自慢の娘だから」と繰り返しました。

母と母の彼氏が夕食を終えると、ふたりは2階の母の部屋へ、祖母も無言で自分の部屋に戻ります。3人がいなくなると、私は妹の分の夕食にラップをかけて、コンビニのアルバイトへ。そして午前12時に帰宅し、お皿を洗って、炊飯器のセットをします。

これで今日の家の仕事は終了です。

15年間、これが家族の当たり前だと思って生きてきました。どんな女の子も、家の仕事をして、親の言うとおりの人生を送らなければいけないんだ……と。

高校に入学して気付いたこと

母に「ここの高校にしなさい」と言われて入学した高校は、いわゆるお嬢さま学校でした。そこまで偏差値は高くはありませんでしたが、制服が可愛いと有名で、それを目当てに入学する女子学生もいました。

入学式の日、新しい友達が出来ました。

「なあ、ユウカ、今日放課後カラオケいこうや。同中のアズサとエリもくるし」

同じ中学だった友達がいなくて心細く感じていた私は、社交的なアミとすぐに打ち解けました。そして、入学式の日の放課後、その日会ったばかりの同じクラスの女子たちとカラオケに行くことになったのです。

「じゃあ、次も西野カナいきまーす!」

メロンソーダを飲みながらアミがそう叫んだとき、終了の10分前を知らせる電話が鳴りました。アミは電話を取ると、迷わず「1時間延長で!」と言いました。

みんなは、それぞれ携帯で親に電話やメールで「帰る時間」を報告しています。携帯の画面を見ながら、「お母さんが迎えに来てくれるって!」「今日うちカレーだ」などと、口々に家族に関する話を始めました。みんなに合わせるように、私も携帯電話に目をやりました。時刻はもうすぐ6時を指しています。

「やば! 夕飯作らな!」

飲みかけのコーラを飲み干すと、500円玉を机に置き、勢いよく立ち上がりました。あわてて帰ろうとする私をほかの3人はぽかんとした顔で見つめています。

「え!? ユウカが夕飯作ってるん!?」

「そうやで。うち母子家庭やし。スーパーいかな」

私がそう言うと、3人は口をそろえて言いました。

「ユウカえっら!」

これのどこがえらいの? 今でもその日のことが忘れられません。自分が当たり前だと思ってしていたことが、普通の女子高生から見ると「当たり前」ではなかったと、初めて知った日でした。

私は走ってスーパーに向かい、昨日もらったバイト代で夕食の材料を買いました。

愛されて育った同級生たちの中で

その日から、同級生と、自分との「家族の違い」を大きく感じるようになりました。

高校に入学してからできた友人たちは、みんな恋愛をして、部活をして習いごとをして、たまにバイトをして、そのお金で遊びに行って……。

でも、私にそれは許されません。学費は親に出してもらっているものの、バイト代はすべて家族4人の食費に消え、遊びに使えるお金はごくわずか。少しでも反抗をすれば、母は大声で私を怒鳴ります。そこに母の彼氏がいたらなおさらのこと。母の彼は、イライラすると、私と妹に暴言を吐くことがありました。

「ユウカは家の仕事で無理やんな?」

最初は声をかけてくれていたアミたちも、気を遣って、だんだんと私を遊びに誘わなくなりました。

それで仲が悪くなることはなかったけれど、次の日学校で「昨日行ったカフェさぁ」とついていけない話の話題になると、どうしようもない寂しさに襲われました。

普通の女子高生だったら母に反抗するのかもしれません。でも私は、反抗することが怖かったのです。母に捨てられたら生きていけない……。どこかでそんな思いもありました。

なんで何も悪いことをしてないのに、みんなと違う家庭に生まれちゃったんだろう。

この「家の仕事」がいつまで続くのか……。ある日、母の機嫌がいいときを見計らって思い切ってこう聞きました。

「お母さん、高校卒業したらひとり暮らししてもいい?」

母は、ビールを飲みながら「う~ん」と悩んだ後、赤らんだ顔で私の顔を見ると、「この家を出るのは、結婚したときしか許しません」ときっぱりと言いました。

自分の親から離れたい

家を出られるのは結婚するとき……。

思わずネットで「実家 結婚まで出られない」と調べました。

そのとき出てきたワードが「毒親」でした。そのチェック項目を見てみると、自分の母親が完全に一致したのです。

そっか、うちは毒親だったんだ……。

「うちの親は普通じゃない」が確信に変わったとき、決して母親には言えない思いを秘めて生活するようになっていました。

「早く結婚して、この家を出る」

それから、6年後。

24歳になった私は、職場で出会った彼と婚約を決めました。

それは同時に、母親からの解放を意味していました。

後編に続く

【筆者プロフィール】

毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

【前回までの連載はコチラ】

妄想恋愛ライター・毒島サチコが書く「選ばれなかった人」の物語。【連載】シンデレラになれなかった私たち

「どうして私と別れたの?」元彼が語ったサヨナラの理由【第1話・前編】

「もっといい人がいる」の真相とは?7年越しの再会の行方【第1話・後編】

「30歳、上京12年目。私が地元に帰りたくない理由【第2話・前編】

「30歳、上京12年目。私が地元に帰りたくない理由【第2話・後編】

私が妄想恋愛ライターになるまで…毒島サチコの自己紹介【第3話・前編】

私が妄想恋愛ライターになるまで…毒島サチコの自己紹介【第3話・後編】

オーガズムに導く70歳の「イカせ屋」に会いに行った美人女医【第4話・前編】

オーガズムに導く70歳の「イカせ屋」に会いに行った美人女医【第4話・後編】

選ばれなかった女の愛とセックスを歌うシンガーソングライター・「さめざめ」笛田サオリインタビュー【第5話・前編】

選ばれなかった女の愛とセックスを歌うシンガーソングライター・「さめざめ」笛田サオリインタビュー【第5話・後編】

港区おじさんに本気で恋した女子大生【第6話・前編】

港区おじさんに本気で恋した女子大生【第6話・前編】

彼氏を束縛するためのアプリを開発した理系女子大生【第7話・前編】

彼氏を束縛するためのアプリを開発した理系女子大生【第7話・後編】

王子さまに選ばれたかった王子さまの物語【第8話・前編】

王子さまに選ばれたかった王子さまの物語【第8話・後編

歌舞伎街ナンバーワンキャバ嬢の私が選ばれ続ける理由【第9話・前編】

歌舞伎街ナンバーワンキャバ嬢の私が選ばれ続ける理由【第9話・後編】

15年前に出された宿題の答え合わせ〜私が不倫を終わらせた理由〜【第10話・前編】

15年前に出された宿題の答え合わせ〜私が不倫を終わらせた理由〜【第10話・後編】

セックスと愛は別物?セックスレス婚をする34歳女教師のこれから【第11話・前編】

セックスと愛は別物?セックスレス婚をする34歳女教師のこれから【第11話・後編】

夢をあきらめ続けた私がミスコンに出て漫画家になれたワケ【第12話・前編】

夢をあきらめ続けた私がミスコンに出て漫画家になれたワケ【第12話・後編】

次回:5月16日土曜日 更新予定

親は選べない。でも人生は選べる。毒親と生きた女性の物語【第13話・後編】―シンデレラになれなかった私たち―