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会いたくても会えない…緊急事態宣言下の恋人たち【番外編】―シンデレラになれなかった私たち―

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

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非常事態宣言下で考えたこと

普段から、取材のとき以外は家に引きこもって記事を書いている私ですが、テレビやインターネットから流れてくる情報を浴びながら、不安な日々を送っています。

最前線で、命を守る仕事に従事している方々に比べたら、私の不安なんて、口にすることさえおこがましいこと。私たちにできることは、これ以上感染を広げないように、家でじっと待つことだけです。

それでもやっぱり苦しいのは、人に会えないこと、取材ができないこと。陽の当たるカフェでお茶をしながら、恋愛や人生について語っていた日々が、どれだけかけがえのない時間だったか……。みなさんも、先の見えない状況に、不安な想いを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

「会いたくても会えない」恋人たちは…

そもそも恋愛というのは、「日常の中の非日常」だと思います。やがてそれが日常に変わるとしても、恋に落ちる瞬間……相手を好きになったと感じる瞬間、世界はそれまでとはまったく違った姿に映ります。

でもいまは、まったく別の形で、日常が非日常に変わってしまいました。

大切な人と会うこと、デートをすることもできないこんな時期に、恋愛記事を書く意味があるのだろうか……。そんなことを考えながら、ふと、ひとつの疑問が浮かびました。

「この非日常を、恋人たちはどうやって過ごしているのかな……」

対面での取材が難しいいま、SNSのダイレクトメールを通して、3人の女性たちに、話を聞くことにしました。

そこで見えてきたのは、大切な人たちに会えなくなってしまった女性たちの、先の見えない状況に対する不安でした。

「会いたくても会えない」3組の恋人たち

「遠距離だから余計につらい」26歳女性

「高校の先輩になる彼と付き合って4年目です。3年前、5歳年上の彼が地元の富山から大阪に転勤になり、ついていこうか悩みましたが、私はそのころ就職したばかりだったんです。だから富山に残って、遠距離恋愛が始まりました。

片道3時間半かけて、月に一度、大阪にいっていました。そのデートだけが楽しみで、毎日仕事を頑張っていたんです。

でも、今は県外に出られる雰囲気じゃない。自分が彼にうつしちゃうのも嫌だし、家族と一緒に住んでいるので、正直、大きな街に出るのはちょっと不安です。

もしこの状況が長く続いたら……。あのとき仕事を辞めて、彼についていけば……夫婦だったら離れ離れにならずに、同じ家の中で過ごせたのにって思うと、ちょっと後悔していますね」(マリコさん・26歳/会社員)

「仕事も休みになって不安すぎる」27歳女性

「愛媛県から上京して5年になります。今は渋谷のアパレルショップで働いているのですが、4月7日から休業になりました。

この先、東京での生活を続けられるのか、すごく不安です。本当は実家に帰りたいんですが、今はそれもできませんし。

唯一の心の支えは、付き合って1年半になる彼氏の存在。毎日テレビを見ていると不安が募るばかりだし、でもやることもないから、やっぱりテレビを見ちゃう。だから耐えきれなくなって、彼に“会いたい”って連絡をしたんです。

でも、埼玉県の実家に住む彼には、“今は会うのは控えよう”って言われました。

もちろん、そうするべきなのは私もわかっているし、彼の言っていることが正しいのもわかります。でも、やっぱり不安だし、寂しいし、こんなときだからこそ、好きな人と一緒にいたいって思うのも、間違いなんですかね……」(チヒロさん・27歳/アパレル関係)

「彼とデートをしたのはたったの2回」34歳女性

「5年付き合った人と別れたのですが、35歳の節目が来る前に一念発起して、年明けから婚活を始めました。

そして先月、結婚相談所で出会った人とお付き合いが始まりました。もちろん、相手も結婚相手を探していたので、結婚前提のまじめな恋愛です。

これからもっと、お互いのことを知っていこう……と考えていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大で……。私は病院で働いているので、あまり家にも帰れず、病院で寝泊まりする日々が続いています。

彼とデートしたのはたったの2回。勤務中はあまり連絡できるような時間もなく、毎日、電話する暇もないほど。彼のほうはテレワークになって、たまにLINEすると、秒で返事が返ってくるんです。それもちょっと申し訳ないような気持ちがして……。

この状況で、どうやって交際を続けていけばいいのか、ちょっと迷ってしまっています。医療の現場を知る身としては、今の状況がGWの前後に収束するとは到底思えないし……」(アキさん・34歳/看護師)

誰もが不安を抱えている

3人の女性が共通して抱えていたのは、「いつこの状況が終わるのか」「再び彼と会うことができるのか」という、先が見えないことに対する不安でした。

そして、そんな彼女たちの話を聞いて、私自身も不安に陥りました。この先、取材を再開することはできるのか。これからも、恋愛記事を書き続ける事ができるのか……。そして、友人や故郷の家族に、いつ会えるのか……。

心はつい、短期的な希望にすがってしまいます。

「5月6日には、緊急事態宣言が解除されるはず」「夏には、この状況は収束にむかっているはず」「年末までには、いや、年明けには……」

4月16日の夜、緊急事態宣言が全都道府県に発令されました。期間はGWが終わる5月6日とされていますが、本当にあと3週間で、この状況が収束にむかうかは、誰にもわかりません。

会いたい人に会えなかった――「夜と霧」

そんな不安の中、1冊の本に、出会いました。ヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」です

今から70年以上前。愛する人と引き離され、強制収容所に収容され、生き延びた男性の手記です。全世界で1000万部以上の大ベストセラーになり、ここ日本でも100万部を超え、東日本大震災後にさらに広く読まれるようになったという本です。

生きているかどうか分からない「妻への想い」

この本の中にはこんな印象的なシーンがありました。

それは、第二次世界大戦が終わる前年の、1944年12月のこと。クリスマスから新年にかけての時期に、収容所でたくさんの人が亡くなりました。その理由は、伝染病でも飢餓でもなく、「クリスマスに収容所から解放される」という噂が流れたからでした。

「あと数か月したら、愛する人に会える」

収監されていた人々は、短期的な希望を抱き、クリスマスを迎えるために生きました。でもその希望は裏切られ、絶望した人々は、次々と命を落としたのだそうです。

そんな中、著者のフランクルは、自身がなぜ生き残ったのかをこう語っています。

自分は、愛する妻にいつか再び会えるという長期的な希望を抱いていた……と。

「いつか会える」という希望

過酷な状況下で、フランクルは、別の収容所に送られた妻の姿を頭の中に思い浮かべ続けます。しかし戦争が終わり、解放されたとき、すでに妻は亡くなっていました。

しかしフランクルは、妻の姿を思い浮かべながら抱き続けた「いつか会える」という希望が、自分の命をつないだのだ、と振り返るのです。

未来への長期的な希望、そして誰かを愛したという思い出さえあれば、それが最終的に人間を救う力になる。フランクルは「夜と霧」の中でそう力強く訴えかけます。

「会いたくても会えない」そのとき、どうする?

短期的な希望にとらわれると不安になる

大切な人に会いたくても会えない今の状況は、いつ終わるかわかりません。フランクルが経験したことと比べることはできないけれど、私たちも今、先の見えない不安の中にいます。

その中で、なんとかして希望を探してしまいます。

「5月6日には、緊急事態宣言が解除されるはず」「夏には、家族や恋人に会える」「年末には、年明けには……」

「夜と霧」を読みながら、自分が短期的な希望ばかりにとらわれていたことに気付きました。

未来に希望を持ち続けること

現代に生きる私たちは、愛する人に会えなくても、電話やLINEで繋がる事ができます。カメラ越しに大切な人の顔を見ながら話すこともできます。

そして、「夜と霧」の著者と同じように、再会した日のことを思い描くことができます。

「いつかまた……」

好きな人と、お酒を飲んで、くだらない話題に花をさかせて、愛し合って、笑い合いたい。

そのときを夢見て、短期的な期待にすがらず、一年後かも、二年後かもしれないけれど、また再開して、笑い合える未来に向けて、希望を持って生きていけたら……。不安と焦燥の最中で、今本当に抱くべき「希望」とは何なのか、改めて考えました。

「会いたくても会えない。でも、いつかは必ず会える」

【筆者プロフィール】

毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

【前回までの連載はコチラ】

妄想恋愛ライター・毒島サチコが書く「選ばれなかった人」の物語。【連載】シンデレラになれなかった私たち

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次回:4月25日土曜日 更新予定

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