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王子さまに選ばれたかった王子さまの物語【第8話・後編】―シンデレラになれなかった私たち─

毒島 サチコS.Busujima

Case8:カミングアウトできなかった大学生

名前:智也(22歳/大学生)

神奈川県出身。都内の大学に通う。現在4年生。

同じゼミに好きな人がいるが、告白ができないまま、卒業の日を迎えようとしている。そして遂に、卒業式にカミングアウトをする決意をした。

前編はこちら

卒業式までのカウントダウン

卒業式に翔に告白をするとを決めてから、仲の良い女友達の文乃と、何度も告白シミュレーションをしました。

翔はきっと、僕が男性を好きだということを1ミリも感じていないはず……。だからこそ、必要以上に驚かせないために、入念に準備をする必要があったのです。

「何のために告白するのか」

「告白してどうなりたいのか」

文乃はしきりに、「告白のその先」を意識するべきだと言いました。しまいには「翔は5年も彼女がいないんだし、もしかしたら男が好きなのかもよ?」などと言い始める始末。

でも僕は、翔が他大の女子とワンナイトをしてしまった話を聞いていたし、好きなAV女優の名前を挙げている姿も見ていました。

「告白したとしても、その先なんてないと思ってるよ」

「えー。じゃあ、なんのために告白するの?」

「自分のこれからのため。自己満足だよ」

僕がそういうと、文乃は肩をすくめて「なるほどね」と言いました。

元カレからの結婚報告

そんなある日、僕のもとにマッチングアプリで出会って、半年間だけ付き合っていた年上の元カレから、久しぶりに連絡がありました。

「実は今度、結婚することになったんだ」

その文面に、僕はとても驚きました。男性同士の結婚は、日本では認められていないはず。

僕は驚いて「え? どんな人と!?」とすぐに返信しました。すると、「会社の同僚だよ。結婚パーティをするから良かったら遊びに来てよ」と誘われたのです。

相手がどういう人なのか興味はあったのですが、僕は「さすがに元カレの結婚式には行けないよ……」と言いました。それでも「じゃあ、お茶でもしようか」と、翌日会うことになったのです。

それは、僕が翔に告白しようと思っていた前日の出来事でした。

元カレの結婚相手とは…

新宿の歌舞伎町の入り口にある古びたカフェで、元カレと待ち合わせをしました。この場所は、僕たちがかつてよくデートしていたカフェで、店内を見渡すと、たくさんの男性カップルがいました。

久しぶりに会った元カレは会うなり、「久しぶり、元気? 明日卒業なんだろう?」と、とってつけたような挨拶をして、頼んだコーヒーを一気に飲み干しました。

何から喋っていいかわからなかった僕は「結婚おめでとう。奥さん……どんな人なの?」と、たずねました。元カレは「あんまり驚かないんだな」と苦笑しました。

そして彼は、30歳になったときに父親が亡くなり、母親から「そろそろ結婚してほしい」と言われるようになったこと、3つ下の職場の女性と社内で付き合うことにしたこと、そして「そろそろハッキリさせてよ」と迫られてプロポーズしたことなどを教えてくれました。

僕はその話をぼんやりと聞きながらも、驚きを隠せませんでした。元カレが、男性も女性も好きになれるタイプだったんだと、このときに初めて知ったからです。

そして、もう一度「結婚おめでとう」と言いました。すると、元カレは僕の目をまっすぐ見て、こう言いました。

「智也は若いからまだ先だと思うけど、結婚願望はないの?」

「うーん。でも俺は男しか好きになれないし、結婚は無理かなぁ」

その言葉を聞いて、元カレは少しの間、黙り込んでしまいました。

そして、間をおいて、震えた声でこう言いました。

「俺だって、男しか好きになれない。智也のことも大好きだったよ」

それから長い沈黙が続き、僕たちは店を出ました。

迎えた卒業式の日

こんな気持ちで卒業式を迎えることになるなんて……。元カレの結婚報告は、僕の心の中に、モヤッとした、行き場のないような苦さを残しました。

男性が好きなのに、自分の感情を押し殺して結婚した元カレ。彼はこの先本当に、奥さんのことを愛することができるのか……。世間体や家族を思って苦渋の決断を下した元カレの気持ちは、文乃に偽装彼女を演じてもらった僕には手に取るようにわかりました。

そして、切ない表情の元カレが今の自分と重なって、僕の胸をギュッと締め付けたのです。

僕は、文乃と待ち合わせて、卒業式の会場に向かいました。

斜め前に座っている翔の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、何ひとつ覚えていない卒業式をつつがなく終えた後、翔を含むゼミメンバーの7人で記念撮影をしました。

そして僕は、翔とふたりで駅に向かって歩きはじめました。文乃との作戦では、このタイミングで告白をする予定……。

でも、最初の言葉が見つからず、他愛もない話を繰り返していました。翔は内定が決まっている会社の話をしながら「かわいい子いるかな」と呟きました。

その姿は、希望に満ちていました。

「あぁ、やっぱり言えない……」僕は心の声を振り払い、無理やり作った笑顔で「翔、またな!」といって、駅へと急ぎ足で向かいました。

後ろを歩いていた文乃が驚いて、僕のことを追いかけてきます。

「え? 言わないの!? 告白するって言ったじゃん!」

でも僕は聞こえないふりをして、歩みを止めませんでした。自然と目に涙があふれてきました。翔と何度も歩いた銀杏並木が、どんどん涙で見えなくなっていきます。

僕は元カレの結婚報告を聞いたことで、自分の将来に、希望のようなものが見えない気がしてしまっていたのです。だから、気持ちを伝えることができなかった……。

僕は心の中で文乃に謝りながら、行き場のない思いを抱えて、地下鉄のホームに駆け下りました。

考察:好きになったのが同性だっただけ

それから4年の歳月が過ぎた冬、智也さんはこんな言葉を漏らしました。

「僕は、誰かのことを好きになったとしても、その人が同性愛者でないと、付き合うことができません。そして、付き合えたとしても、多くの人が行き交うような場所で手をつなぐことは、きっとないでしょう」

そう語る表情は切なくも、どこか割り切っているようにも見えます。

「元カレのように、同性を好きだっていうことを隠して、カモフラ結婚をする人もいます。でも、それって悲しいことだと思うんです。自分だけでなく、相手のことも傷つけてしまうから。僕は、ちゃんと好きな人ができたら、向き合ってずっと一緒にいることを選びたいんです」

卒業式から4年たった今、翔さんのことは思い出として、自分の中にしまっているのだといいます。そして現在、智也さんには、マッチングアプリで出会った4歳上の彼がいます。

選びたくても選ぶことが出来ない

今、日本では、同性同士の結婚は認められていません。

日本国憲法の第24条1項には、こう記されています。

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない

「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と規定されていることから、同性婚は、憲法上禁止されています。

たとえ大切なパートナーが重篤な病気にかかったとしても、家族として認められず、病室に立ち会えないこともあるのです。

選びたくても、選ぶことができない。選ばれたくても、選ばれることができない。好きだという感情は、まったく同じなのに……。

この状況を、どう思いますか。

【筆者プロフィール】

毒島サチコ

photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

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