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選ばれなかった女の愛とセックスを歌うシンガーソングライター・「さめざめ」笛田サオリインタビュー【第5話・後編】―シンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

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Case5:選ばれなかった女性の愛とセックスを歌うシンガーソングライター

名前:「さめざめ」笛田サオリ(シンガーソングライター)

神奈川県出身。報われない恋や、等身大の気持ちを歌い続け、女性たちから大きな支持を得ていて、昨年で活動10周年を迎える。自身のリアルな実体験から、詩と曲を生み出し続けている。

 

リアルを歌い続けるシンガーソングライターの「選ばれなかったリアルな恋」

今でも忘れられない恋…

22歳から24歳の2年間。

彼に会いたいがために貸したお金は、数十万に膨れ上がっていました。

「もう二度と彼に会えないし、お金も返ってこない……」

そんな絶望的な結末……。

でも、この恋には、なんと続きがあるんです。

―前編はこちらー

10年後の再会

こっそり書いていたmixiの日記がきっかけで彼に激怒され、そこから音信不通になってから10年が経ったある日。

共通の友達から、私と音信不通になってから程なく、彼が結婚したことを聞きました。

10年も経っているのに、かなり衝撃を受けて、目の前が真っ白になりました。

今まで思い出さないように、彼の名前をネットで検索することは控えていたけれど、このときばかりは、スマホで彼の名前を検索していました。

すると、私の目に飛び込んできたのは、舞台で大活躍している彼の姿でした。

それでも会いたいと思ってしまう

そのことを友人に話したところ、「それなら今、けっこうお金持ってるんじゃない? 返してもらいなよ」と冗談交じりに言われました。

彼に対する恋心は、もうないと思っていたのに、

「お金を返してと言えば、会ってくれるかな……」

年齢も、さまざまな恋愛を重ねた今でも、そう思ってしまうのです。

そこで私は、知り合いから彼のラインを聞いて「久しぶり」とメッセージを打ちました。

すぐに彼からも「久しぶり」と連絡がありました。

「仕事は順調?」と聞くと、すぐに既読がついて「ぼちぼち」と、短い返信。

このままではラインが終わってしまうと感じた私は「前に貸したお金のことなんだけど……」と、絶対に返信しなくてはいけないと思うような内容を送りました。

すると彼は「少しずつでも返せたらって思っている」と言いました。

そう言われたとき、「また会えるかも……」と思ってしまった私は、少し間をおいて「久しぶりに会わない?」と誘いました。でも、彼からの返信は「忙しいから口座教えて。振り込むから」でした。

10年ぶりの彼と再会

毎月の返済が始まり、通帳に彼の名前が記入されるようになりました。

仕方ないことかと諦めていましたが、一度だけ「CDを渡したいから会いたい」といって、彼と会うことになりました。

もちろん、集合場所は夜の新宿。

10年の時を経て、新宿の街は、ずいぶんと変わっていました。

アルタ裏のお花屋さんはなくなっていたし、彼と行った安いラブホテルも、もうとっくに潰れていました。

それでも私は、新宿に着くと、彼の面影を探していました。

待ち合わせ場所に現れた彼は、短い挨拶をした後、私からのCDを受け取るなり、「これから仕事なんだ。じゃあね」と言って、去っていきました。

それは、ほんの1分にも満たない、あっさりした再会でした。

全額返済されたとき、恋が成仏した

それからも、彼から連絡が定期的に来ていました。

「今月分、振り込みました」

ただの業務連絡。そのやりとりが毎月続きました。

10年前のように会って、手渡しで返されることはありません。

……違う、お金を返してほしいんじゃない。会いたいからお金を返してと言ったの……。

私の心の中には、そんな想いがありました。

お金が口座に振り込まれているのを確認するたび、なんともいえない切なさに襲われました。返済が終われば、完全に彼との縁が切れてしまうのではないかと思ったのです。

「難しそうだったら無理しないでね」

彼との縁を続けたくて、こんなLINEをすることもありました。

それでも彼からは「今月分、振り込みました」と業務連絡が来るばかり。

結局、数年かけて、貸していたお金を全額返済してくれました。

「今月分、振り込みました」

彼の最後のLINEに、私は「長年お疲れさまでした。ありがとう」と返信しました。

既読がついたまま、彼からの返信はありませんでした。

会ったのは、CDを渡した、たった一回だけでした……。

 

毒島の考察:さめざめになったことで見つけた“あたし”

自分の幸せは自分で決める

サオリさんは、取材のあと、こう語りました。

「借金を全部返してもらった2017年、私はそんな彼との恋を、『新宿ドキュメンタリー』という曲にしました。今でもたまに、彼のことを思い出します。私の曲は全部、自分の体験からできているんです。リアリティのない曲は書けませんから」

今回語ってもらった恋愛から生まれた曲「新宿ドキュメンタリー」のサビには、こんな一節があります。

新宿にいるたび 丸の内線に乗るたび

思い出しちゃうの、本当の“あたし”になった日を

──さめざめ「新宿ドキュメンタリー」より

この「新宿ドキュメンタリー」誕生秘話を聞いた後、サオリさんに2020年の抱負を聞いてみました。

「2020年も、私は報われない恋を歌いたいと思います。だって両想いの曲は、きっと誰かが歌ってくれるから(笑)」

こちらの目をまっすぐ見て、サオリさんはそう言いました。

サオリさんが作る曲はどれも赤裸々でリアリティにあふれていて、「選ばれなかった」「報われなかった」女性の気持ちを歌ったものばかり。

そんな恋を、不幸なものだと思う人もいるかもしれません。

好きな人と結ばれることこそが、幸せだと思う人もいるかもしれません。

「もちろん、好きな人とは結ばれたいし、それはそれで幸せだと思います。でも、大好きな人と付き合えても、望むような結婚をしても、もしかしたら別れてしまうかもしれない。いなくなっちゃうかもしれない。

でも音楽は、絶対に自分を裏切らないですから」

そして、取材の最後をこう締めくくりました。

「私がいちばんの幸せ者なんですよ。だって、こんな痛い恋だけど、その経験があって、みなさんのもとにこうして曲を届けることができているんだから。幸せっていうのは、自分の外側じゃなくて、内側にあるものだから」

何が幸せかは自分で決めるから

私じゃなくてもいいから私のそばにいてよ

──さめざめ「私じゃなくてもよかった」より

昨年、デビュー10周年を迎えた「さめざめ」笛田サオリさん。その最新曲「私じゃなくてもよかった」の中に、こんな言葉を見つけました。

 

【今回のゲスト】

 

さめざめ(笛田サオリ)

1982年1月24日生まれ、鎌倉市出身。音楽家・文筆家・作詞家・アクセサリー作家。2012年12月シングル『愛とか夢とか恋とかSEXとか』でビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー。昨年には結成10周年を記念したフルAL『ネオフューチャーメンヘラ』をリリース。

さめざめによるポップアップショップ『さめざめコミケツアー2020 at koenji 』が開催決定!

日程:2020年1月18日~1月31日

時間:10:00~00:00 

ヴィレッジヴァンガード高円寺店

※詳しくは「さめざめ」オフィシャルHPをチェック!

 

筆者プロフィール

毒島サチコ

photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「Menjoy!」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

 

前回までの連載はコチラ

妄想恋愛ライター・毒島サチコが書く「選ばれなかった人」の物語。【連載】シンデレラになれなかった私たち

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次回:2020年1月25日土曜日 更新予定

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