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私が妄想恋愛ライターになるまで。毒島サチコの自己紹介【第3話・後編】―シンデレラになれなかった私たち―
毒島 サチコS.Busujima
ケース3:選ばれてこなかった人生を終わらせたい恋愛ライター
名前:サチコ(28歳・ライター)
愛媛県出身。現在は、ライターとして活動。人生初の婚活「バチェラー・ジャパン」に挑む!……が、その前に大切なことを忘れていて……。
前編はコチラ→私が妄想恋愛ライターになるまで…毒島サチコの自己紹介【第3話・前編】―シンデレラになれなかった私たち―
人生初の婚活へ
私の妄想が現実になるかもしれない……その舞台が「バチェラー・ジャパン」でした。
子供のころから、いつか白馬に乗った王子さまが現れてくれる……と妄想していた私は、このチャンスこそ、子どものころから夢見ていた場所だと、意気揚々と参加したのです。
私につけていただいたキャッチコピーは「妄想恋愛ライター」。
まさに現実よりも、妄想の世界で生きてきた私にピッタリでした。
忘れていた大切なこと
「バチェラー・ジャパン」の参加者には、番組に参加するにあたって、下記のような条件があります。
・結婚がしたい20歳以上の方。
・現在独身でお付き合いしている人がいない方。
・ご家族の出演が可能な方。
・最大3か月の婚活(撮影)に参加可能な方
婚活サバイバルに参加する2日前、準備は万端でした。
Menjoy!編集部にも「毒島、結婚してきまっす!」と宣言して、盛大に送り出してもらいました。
私は、パンパンになったキャリーバッグを玄関に置き、ベッドの上に寝転びました。愛媛の田舎から出てきた私が、ついに王子さまに選ばれる日が来たかもしれない……!
もう、思い残すことはありません。
しかしその日の夜、ライターの友人とごはんを食べているとき、重大なことに気づいたのです。それは「家族に3か月間音信不通になるということを伝えていない」ということ。
それを聞いた友人は慌てふためき、「それはヤバイよ。今すぐ連絡しなきゃ!」と言いました。
ネット番組に参加するということは、番組の規約上伝えていたものの、娘が3か月間、音信不通になったら……。確かに、どんな親でも心配しないわけがありません。
「……なんて説明しよう。無人島にでも行くっていっておけばいいかね」と私が言うと、「それ、下手したら捜索願を出されるかもね」と友人は言いました。
困った……なんて伝えよう……。
また選ばれなかったらどうしよう
私がギリギリまで番組の詳細を両親に言えなかったのには、理由がありました。
父と母を心配させたくなかったということもありますが、今回もまた「もし選ばれなかったら……」と思うと、なかなか言い出せなかったのです。
それに、両親が視聴しているのは、NHKか地元のローカル番組ばかり。
Amazon Primeどころか、ネット通販さえ利用したことはありません。
「恋愛リアリティーショー」なんて、どう説明しても、理解してもらえるとは思えなかったのです。
私がそんな言い訳を並べてウジウジしていると、友人は「ほら、スマホ貸して。私がLINEしてあげるわ」と言って、家族のグループLINEに、サラサラと番組の概要や趣旨、日本のみならず、世界中の人々が楽しんでいる番組であること、そして、最大3か月間、連絡がつかなくなることなど、短い文章で完結に書いてくれました。
持つべきは、ライターの友人です。
家族の反応は…
これならきっと大丈夫……。私がLINEを送信すると、すぐに既読がつきました。
でも、10分……20分……と、なかなか返事はきません。
「やっぱり心配なんだよ。大切な娘のことだもん」
友人はそうつぶやき、彼女も独身にも関わらず「親ってのはねぇ、心配するものなの。今ごろ、あんたのことが心配で、居てもたってもいられなくなってるよ」と、言いました。
確かに田舎の娘が、ネット番組で知らない男性に求婚する、なんていうことを知れば、どんな親だって心配するに決まっています。
ぐるぐるといろいろなことを考えながら、すっかり冷めた焼酎のお湯割りを飲もうとしたとき、LINEの通知が鳴りました。
……きた!!! お母さんだ!
ホッとした半面、私は、LINEを開くことをためらいました。
出発直前に音信不通になるということを伝えるなんて……きっと長文のお叱りメッセージが届くに違いない、と考えたのです。
恐る恐る、LINEを開きました。
絶句する私を前に、友人は気まずそうにトイレに立ちました。
なんなの? 娘が3か月間も連絡がつかない可能性があるっていうのに……。
私は無言でLINEを閉じました。
出発前日、妹から聞いたこと
それでも、番組に参加する当日の朝、妹から電話がありました。
「お母さん、めっちゃ心配してたよ」
「あの子、大丈夫やろうか」「病んだりしないやろうか」「やると決めたら、聞かない子やから……」と、何通も妹宛にLINEがきていたのだそう。
妹は「有名な番組だから大丈夫って伝えといた」と言い、その後「ちゃんとそういうことは相談したほうがいいよ」と、すごくまっとうなことを言いました。
しっかり者で素直な妹とは対称的な性格の私は、昔から自分が「これ!」と決めたものに関しては、誰に何と言われようと、突き通す性格でした。
何をするにしても、両親にはいつも「〇〇することにしたから」と事後報告にしていたのです。
私が悩んでいるとき、何も聞かずに「家族なんだから、何でも相談しなさい」と言ってくれた母の言葉を思い出し、胸がキューッと締めつけられました。
そして、猛烈な後悔に襲われました。
いつだって私は自分勝手に生きてきました。陸上をしていたときもそう。勝手に陸上を始め、勝手に試合に出て、勝手に負けて落ち込んで……。
でも母は、私が選手に選ばれても、選ばれなくても、結果や感想は聞かず、いつもと同じ顔で台所に立ち、晩ごはんを作ってくれていました。
そんな母の「見守る」やさしさにひとつも気付いていなかった自分の愚かさに気づいて、涙が止まらなくなりました。
私は、母に「いってきます」とLINEを打ちました。
母の人生、私の人生
現在も配信中の番組のため、内容については語れませんが、収録中、参加者はスマートフォンもPCも預けて、外界と一切の連絡がとれなくなります。
終了後、スマホが返されたタイミングで、すぐに電源を入れて、母に連絡をしようと思いました。
出発直前の「いってきます」に、どんな返信をくれたのかが、ずっと気がかりだったのです。
そして今こそ、素直な感謝の気持ちを伝えたいと思いました。
LINE画面を開くと、友人たちからたくさんのメッセージが届いていました。
はやる気持ちをおさえ、母のLINEを探しました。あふれそうになる涙をぬぐいながら、トーク画面をスクロールします。
……あった!
「!!!!!」
私は、言葉を失いました。
あふれそうになっていた涙が、一瞬で引っ込むのを感じました。
……バーチャルじゃなくて、バチェラーだから!
そして……私が胸が締めつけられる思いで送った「いってきます」というメッセージはガン無視かい!
その後は、家のそばにキノコが生えたという、どうでもいい報告が続いていました。
でも、心のどこかで、そんな母のLINEに、救われたような気がしたのです。
何かをつかみ取らなければ、選ばれなければ人生に意味はないと思い続けていた私にとって、そのLINEは、疲弊した心に染みいるようでした。
選ぶか、選ばれるか
その後の私は、少しずつ、それまで自分の中に生まれることのなかった、前向きな感情で、満たされるようになりました。
素晴らしい番組に参加させて頂いたこと(ぜひ、まだご覧になっていない方々は、Amazon Prime Videoにアクセスしてみて下さい!)。魅力的な参加メンバーと出会い、番組制作に真剣に向き合うスタッフさんたちの姿を見て、ライターという自身の仕事に、真剣に向き合おうと思えたこと。
何より、こうして自分の居場所を頂けていることに対する感謝の気持ち。
自分の人生を選ぶか、選ばれるか。
そんなことを超越した母の愛(?)に、もしかしたら、こうしたありかたに人生の本質が隠されているのではないか……と考えるようになったのです。
そして、こうして皆様のもとに、恋愛ルポルタージュをお届けするという幸せを頂いています。
なんだか、とりとめもない自己紹介になってしまって……すいません。
選ぶ人生、選ばれる人生、そして多くの選ばれない人生。
私は今、そのすべての人生に意味があるはず……という確信とともに、今を一所懸命生きる女性たちの取材を続けています。
取材の中で感じることは、いつもひとつです。
報われないことや、悲しいこと。人生は、楽しいことよりも、辛いことのほうが多いけれど……。それでも、やっぱり生きてるって、素晴らしいな、と。
これからも、シンデレラになれなかった私たちの物語を、楽しみにして頂ければ幸いです。
故郷の愛媛を想い、ポンジュースを飲みながら……。
筆者プロフィール
愛媛県出身。学生時代から恋愛ライターとして活動し、「Menjoy!」をはじめ、WEBメディアを中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に「妄想恋愛ライター・永合弘乃(本名)」として参加。
前回までの連載はコチラ!
「どうして私と別れたの?」元彼が語ったサヨナラの理由【第1話・前編】
「もっといい人がいる」の真相とは?7年越しの再会の行方【第1話・後編】
「30歳、上京12年目。私が地元に帰りたくない理由【第2話・前編】
「30歳、上京12年目。私が地元に帰りたくない理由【第2話・後編】
次回:12月28日土曜日 更新
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