恋のなやみに効くメディア

30歳、上京12年目。私が地元に帰りたくない理由【第二話・後編】ーシンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

ケース2:地元に帰れなくなったアラサー女性【後半】

名前:マキ(30歳・美容師)

香川県の高校を卒業後、美容専門学校に通うために上京。以来、東京で12年暮らし、美容師として働いている。

前回はコチラ→30歳、上京12年目。私が地元に帰りたくない理由【第二話・前編】ーシンデレラになれなかった私たちー

高田くんの突然の婚約発表

30歳。女性として「結婚」という2文字が現実味を帯びてくる年齢になりました。

18歳で上京し、あっという間に過ぎた12年間。焦りを感じながらも、私にはあるひとつの安心感がありました。

それは地元・香川に、私のことをずっと好きだと言ってくれている中学時代のクラスメイト、高田くんがいること。

もし、東京で結婚できなくても、「愛する人より、愛してくれる人と結婚する」という選択肢がある……そう思っていました。 

しかし……

年末の同窓会、高田くんは突然、婚約を発表したのです。

ずっと私に片思いしていると思ってたのに…

高田くんは高校3年間、私に片思いしていた男子です。

今は地元の銀行に勤めていて、普段は真面目でしたが、帰京するたび、お酒を飲んでいると、決まって私にこう言いました。

「卒業した今だから言えるけど、俺、マキのこと好きだったんだよね」

そして毎年のように、冗談交じりで告白をされました。

最後に告白をされたのは確か2年前……。「遠距離でもいいからつきあおう」と……。昨年のお正月には酔っぱらって「マキ、俺と結婚してください!」なんて言っていたのに。

いったい、この1年間で何があったのか……。

私は驚きのあまり、呆然と立ちつくしていました。

都合のいい話ですが、「万が一、地元に帰ることがあれば、結婚するのは高田くん」と勝手に思っていたのです。

仕事が辛いとき、高田くんが電話越しに言ってくれた「しんどかったら戻ってきたらええやん」という言葉に、何度はげまされたことか。

そんな高田くんがなんで……。しかも、付き合うだけじゃなく、もう婚約しているなんて……。

おめでたい話なのに、とても複雑な気持ちでした。

高田くんの婚約相手は、私と正反対の性格

高田くんの婚約相手は、吹奏楽部でフルートを吹いていて、高校卒業後、地元の専門学校に進学し、歯科助手をしている夏子ちゃんでした。

おとなしくてひかえめの性格。体育会系だった私とは正反対。

みんなとワイワイするタイプでもなく、去年も、その前も、同窓会に参加していませんでした。活発な高田くんと夏子ちゃんは学生時代、まったく接点がなかったはず。

そのふたりが結婚するなんて……。高田くんはずっと私を好きだったはずなのに、なんで私と正反対の女性と婚約したのか……。

二人が婚約した理由

「ねえ、高田くんって、夏子ちゃんと仲良かったっけ?」

同窓会も締めに近づいたころ、私は動揺を隠し、明るくふるまいながら、高田くんに聞きました。

高田くんは、

「街コンで偶然会ったんだよね~」

と、照れくさそうに答えました。

予想をしていなかった回答に思わず、ビールを吹き出しそうになりました。

「街コンって……どこで?」

私の地元は人口1万人弱、しかもほとんどが高齢者で、若者の少ない過疎の町です。

そんな地元で街コンとは……。

詳しく話を聞くと、地元には数年前から自治体が運営している「婚活協会」なるものが存在し、お節介な世話焼きおばさんが、定期的に街コンをセッティングしているのだそうです。

その内実はなかなか本格的で、ファッションからメイク、立ち居振る舞いに至るまで、手取り足取り指南してくれるのだとか……。

マッチングアプリ、結婚相談所と、男女が出会い、パートナーを選ぶ選択は多様化していたかと思いきや、昔ながらのお見合いが「街コン」という形で、地方の若者たちが出会うきっかけになっていたのです。

「久しぶりに会った夏子、めっちゃキレイになってて。一気に好きになっちゃったんだよね」

そう言う高田くんの薬指には、指輪が光っていました。

もう地元には帰れない

高田くんの婚約は、予想外のダメージとして、東京へと戻る私の背中にのしかかりました。

身勝手な話ではありますが、自分が好きでなかったとしても、ずっと好きでいてくれていた男性が、別の人と結婚するという事実に、言いようのないさみしさを感じてしまったのです。

それも、よりによって、クラスメイトと……。

「しんどかったら戻ってきたらええやん」

高田くんの言葉が、いまも頭の中でこだましています。

 

【考察】選べる幸せ 選べない幸せ

結婚は物事の分別がついたら出来ない

「私、上京して、良くも悪くもいろいろ知りすぎてしまったのかもしれません」

マキさんは、筆者の取材のあと、そう語りました。

昔から、東京で美容師として働くのが夢だったマキさん。

勉強したい、最前線で働きたい。知らないことを知りたい。

そして、大好きな美容雑誌を片手に、18歳の時に上京。

「私は夢を追いかけて上京し、自分は“選ぶ”人生を選択したんだって思っていたんです。田舎に引きこもって一生を送るなんて、私にとってはありえない。自由な都会に出て、仕事や恋、ライフスタイルを選んで、いつか出会う王子さまに選ばれたい、と。

上京して、良くも悪くも、たくさんの男性や仕事を知りました。これは私が望んでいたこと。でも……」

「もしかしたら王子さまだったかもしれない人のプロポーズに、私は答えなかったんだ……って、このとき気づいたんです」

“結婚なんてのは

若いうちにしなきゃダメなの。

物事の分別がついたら

できないんだから”

高田くんの婚約を知ったとき、マキさんは故・樹木希林さんのこんな言葉を思い出したそうです。

選ぶ人生と選ばれる人生

高田くんが、王子さまだったかもしれない…そう語るマキさんは、少し寂しそうにではありましたが、逆に吹っ切れたようにも見えました。

そして、こんな言葉を続けました。

「もしこの世界に、男性と女性が5人ずつの計10人しかいなかったとしたら、その中で恋をするし、その中で結婚する。ときめきはないかもしれないけれど、狭い世界の中で、幸せを手に入れていたのかもしれない……と思います。

東京って選択肢が多すぎて、何が大事なのかを見失ってしまうんですよね」

人生にタラレバはつきものですが、選択肢の少ない地方から上京し、自ら選ぶ人生と選ばれる人生の狭間で揺れ動くマキさん。

彼女の姿は、みなさんの目に、どう映るでしょうか。

 

取材の終わりを、マキさんはこう締めくくりました。

「でももう、私は地元には帰れません。こうなったら何が何でも、東京で、自分なりの幸せをみつけたいって思っています」

 

筆者プロフィール

毒島サチコ

photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。学生時代から恋愛ライターとして活動し、「Menjoy!」をはじめ、WEBメディアを中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に「妄想恋愛ライター・永合弘乃(本名)」として参加。

 

前回までの連載はコチラ

妄想恋愛ライター・毒島サチコが書く「選ばれなかった人」の物語。【連載】シンデレラになれなかった私たち

「どうして私と別れたの?」元彼が語ったサヨナラの理由【第1話・前編】ーシンデレラになれなかった私たち ー

「もっといい人がいる」の真相とは?7年越しの再会の行方【第1話・後編】ーシンデレラになれなかった私たち ー

 

次回:12月14日土曜日 更新予定