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「これってストーカー?」もしもに備える適切な対処法【前編】

中田綾美

中田綾美A.Nakata

特定の人物に対してつきまとい等の行為をするストーカー。あなたは自分がその被害者になったことを想像したことがありますか?

警察庁の統計「ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の対応状況について」によれば、ストーカーの被害者の9割が女性です。

もちろん、先日スピッツのボーカル草野マサムネさんが被害に遭ったように、女性が加害者・男性が被害者というケースもありますが、やはり体力的に劣る女性のほうが脅威を感じやすく警察への相談件数も多いのでしょう。

また、草野さんのケースでは、熱狂的なファンが加害者でしたが、最も多いのは加害者が交際相手(元交際相手含む)というパターン。相談件数のおよそ半数を占めています。

そこで、「もしかしてこれってストーカー?」という事態に備えて、馬場・澤田法律事務所の弁護士・手打寛規先生にストーカー被害への対処法についてお話をうかがいました。

【前編】では、そもそもどういう行為が法律で規制されるストーカーに当たるのかについて、解説したいと思います。

 

目次

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■誰もが経験しうるストーカー行為とは?

最近では、ドラマや漫画を通じて、ストーカーの大まかなイメージをつかんでいる人は多いことでしょう。

ただ、ドラマで描かれる凶悪な態様だけでなく、実は失恋後に誰しもやってしまう行為でも、ストーカーに当たる可能性があるのです。

ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下、ストーカー規制法)では、以下の行為が規制の対象となっています。

1.つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。

2.その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

3.面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。

4.著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

5.電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。

6.汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

7.その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

8.その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。

みなさんも、元彼から「なあ、もう1回考え直してくれよ」としつこくメールや電話があったり、待ち伏せされたりした経験などないですか? あるいは、振られた相手に自分がやってしまったという心当たりがあるかもしれませんね。

もちろん、上の1~8の行為を少しでもすれば、即ストーカー規制法にひっかかるというわけではありません。

ストーカー規制法では、これらの行為を“反復”すること、“不安を覚えさせるような方法”で行うことがアウトとしています。手打先生によれば、特に不安を覚えさせるような方法かどうかが、ストーカーかどうか判断するうえで重要だそうです。

要するに、待ち伏せや復縁を迫る電話やメールの全てがストーカーというわけではありませんが、「この人、何かヤバイ。気持ち悪い」と異様な気配が感じられるのであればストーカー行為に当たる可能性が高くなります。

ただし、当事者だと物事を冷静に見られないことが多いので、自分の主観で「これは絶対ストーカーだ!」「いやこの程度は大したことない」と決めつけるべきでありません。第三者に自分がされたことを話してみて、どういう印象を抱くか聞いてみるべきでしょう。

 

■実際にあったこんな事例

ストーカー行為について、もう少し具体的なイメージをつかむために、実際に起こった事例を2件紹介します。

(1)年の数のバラを……

22歳のA男は、21歳のB子と交際していましたが、B子につきまとい等をしたために、警察から1度警告を受けています。

にもかかわらず、A男は5か月の間に2回、B子に21本のバラを送りつけ、その間

「花を受け取って欲しい」「話し合いに応じて欲しい」「受け取ったものを送り返してきたのは僕を攻撃の対象にしているのか」「早く真剣に自分と向き合って欲しい」「早く返事をして欲しい」「昔に立ち戻って欲しい」「次に電話したときは出て欲しい」「僕の生活は限界である」

などと記載した郵便物をB子に送り、面会・連絡を5回にわたって要求したのです。

年の数のバラの花も怖いですが、何よりも郵便物の文面が一方的すぎますよね。結局、このA男、最高裁まで粘りましたが懲役6か月・執行猶予4年(ただしこの間、保護観察官の指導などを受けなくてはならない)の判決を受けました。

(2)裸写真を送付したサイテー男

C男は、かつて交際して同棲していたD子に振られたものの納得がいかず、待ち伏せしてプロポーズ。D子がこれを拒否すると、C男は態度を硬化させ、交際中の外食費用の半分の支払いをD子に求めました。

D子はC男からの連絡を一切無視し、着信拒否などの措置をとりましたが、C男の行為はさらにエスカレート。C男はD子に着信拒否設定の解除や金銭支払いの要求を手紙でたびたび行いました。うち1回は、D子の裸の画像をプリントアウトしたものを同封しています。

C男はこれらの行為について、恐喝未遂で検挙された以外に、ストーカー規制法違反にも問われて、懲役3月執行猶予2年の判決を受けました。

ラブラブ状態だと、彼氏が自分のヌードを撮影するのをつい許してしまう女性って多いですよね。特に、携帯のカメラ機能だと彼氏以外の誰にも見られることがないと軽く考えられがちですが、別れたあとに上のようなトラブルにつながることが少なくありません。

 

上で紹介した2件は、いずれも執行猶予付きとはいえ懲役刑まで課せられたかなり悪質な事例です。ここまで程度の重いものでなくても、つきまとい等、ストーカー規制法に規定された8つの行為に該当すれば、ストーカーに当たる可能性が高い以上、「おかしい」と思ったらなるべく早く警察に相談することを手打先生はすすめています。警察による警告で終わるケースも多いからです。

次回【後編】では、その相談など、「もしかしてストーカー?」という被害に遭った場合に、具体的にどのように対処すべきかをお届けします。

 

【取材協力】

※ 馬場・澤田法律事務所:手打寛規弁護士