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江戸時代エロすぎっ!知られざる「キス・口吸い」の歴史

中田綾美

中田綾美A.Nakata

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遅くとも平安時代にキス文化があった?

キスの起源については諸説ありますが、わが国・日本ではいつごろからキスの文化が存在していたかというと、平安時代までさかのぼります。

平安文学として有名な紀貫之の『土佐日記物語』や作者不詳の『今昔物語』などに男女のキスにまつわる記述があるのです。

『今昔物語』では妻の遺体にキスを?

『今昔物語』には、大江定基という男が、病死した妻の亡骸と添い寝して、夜な夜なキスしていたというエピソードがあります。

しだいに妻の口から死臭がするようになったため、泣く泣く妻を葬送して、自分は出家してしまったのだとか。

シチュエーションを想像するとロマンチックというよりホラーですが、はるか昔にこんなラブストーリーもあったのですね。

 

あの戦国大名が実はキス魔だった?

大河ドラマ『真田丸』にて、堺雅人さん演じる幸村と、長澤まさみさん演じる“きり”との口吸い(キス)シーンが話題になったのは記憶に新しいところ。

このキスシーンは、堺雅人さんの発案で台本に追加されたものだそうで、史実通りかどうかは明らかではありません。

ただ、同時代の人物である豊臣秀吉については、“口吸い”にまつわる資料が残っています。

チューしたくて悶々……

秀吉が幼い息子・秀頼に送った手紙に、「俺の留守中に誰にも口吸いさせるなよ、俺が帰ったら口吸いさせろよ」という内容の記述があります。

一見すると、子煩悩なパパですが、実はこの手紙、側室の淀君に読ませるためのものだったのでは、という説が……。

ちなみに、当時の秀吉はすでにアラカン(還暦)で淀君とは30歳ほどの年齢差があったといわれています。

功名を立てた大人物が若い女にメロメロになり、キスに気もそぞろ……。現代でも似たような事例がよくありますよね。

 

江戸に花咲くディープキス文化

その後、キス文化がさらに盛り上がったのは、江戸時代。永井義男・著『江戸の性語辞典』 の“口吸い”の項目にて下記のような説明がなされています。

<キスのこと。口を吸う、口を吸わせるなどと用いる。春本や春画の書入れによると、口吸いにはチュウチュウ、スパスパなどの擬音語が用いられており、おたがいに相手の舌を強く吸うことが多かったようだ。>

“舌を強く吸う”……そう、ディープキスです! 江戸時代にはずいぶんとディープキスがお盛んだったようで、春本には官能的なシーンがありありと描かれています。

<口をたがいにありたけあいて、舌の抜けるほど吸い合うに……春本『絵本開談夜之殿』(文政九年)>

<男の顔へ顔を押し付けると、男もそのまま口を吸うに、舌を出して吸わせる。また男も舌を出せば、しごいて吸い、唾を飲み込んで……春本『天野浮橋』(天保元年)>

<男の衿をしっかと抱き締め、舌を長く差し出してペチャペチャスパスパスパと、ややしばらく吸い合うほどに……春本『正写相生源氏』(嘉永四年頃)> ※太字は筆者

ペチャペチャスパスパスパ? 状況がわかるようなわからないような……。江戸時代には“ほっぺにチュっ”のような軽いキスよりも、“くんずほぐれつ”セックスと一体化したようなキスが主流だったもようです。

 

人類はなぜキスするのか?

「人はなぜセックスするのか?」という問いには、「生殖本能があるから」という説明をつけることができます。

他方で、キスは? 1,000年以上にわたって愛情表現としてキスが行われてきたというのは、考えてみると不思議なことですよね。

そこで、キスにはどんな意味があるのか、恋愛心理学者の平松隆円さんに教えていただきました。

キスで遺伝子の交換!?

平松「キスは愛情表現というだけでなく、遺伝子を交換し、それによって最適な繁殖パートナーを見つけるという意味合いもあります。

スロバキア共和国コメニウス大学の研究チームが12組のカップルを対象に、2分間の情熱的なキスをしてもらう、という調査を行ったところ、キスをしてから60分が経過しても男性がもつY染色体が女性の唾液中にあることが判明したのです。

自分と相手の遺伝子がキスを通じて交換されるから、本当に好きな人とじゃないとできないのかもしれませんね」

キスにそんな深~い意味があったとは……。きっと我々のご先祖様も、キスを通じて遺伝子的に相性のいい相手を見極めてきたのでしょうね。

 

キスの歴史から生物学的な意味まで、これであなたもキス博士! さて、今宵あなたは好きな人とどんなキスをしますか?

 

【取材協力】

※ 平松隆円・・・大学教員。化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。専門は化粧心理学や化粧文化論。大学では魅力をテーマに恋愛心理学も担当。現在は、日本と海外を往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。

【参考】

永井義男(2014)『江戸の性語辞典』(朝日新聞出版)